仕事を遂行する上で必要十分な知識(その2)

先に提示した「成果=目的の理解×知識×能力」という考え方の中で、


「『知識』の幅は-100点~100点で、マイナスがある」


という見解をあわせて提示しました。仕事の遂行に必要な知識について「誤った知識」「偏った知識」しか持たずに仕事を進めると、マイナスの成果になる可能性があるという意味です。


仕事の前提としている知識が誤っていることに気づくのは簡単ではありません。「目的の理解」が誤っていることは、チーム内での丁寧なコミュニケーションで気づくことができます。また仕事の成果が、どうも思ったようなものではないことでも気づくことができます。


一方、仕事の前提としている知識が正しいか誤っているかは、関連する領域の包括的な知識や経験と比較することでしか判断できません。仕事の途中経過やロジックをどのように分析したとしても、前提としている知識が間違っていることは分かりません。さらに悪いことに、私たちは「自分の知っている知識が正しい」「自分が知っている知識で仕事には必要十分である」と思い込む性癖があるようです。私自身も例外ではありません。

仕事の前提としている知識に誤りがあると、「その知識を前提とした仕事」の成果は望ましくないものになるはずです。そして「知識の誤り」は発見されにくいので、望ましくない仕事の成果を使い続けてしまう、望ましくない成果の上で、どんどん次の仕事を続けてしまうおそれが十分にある。これが、私が「仕事の遂行に必要な知識について『誤った知識』『偏った知識』しか持たずに仕事を進めると、マイナスの成果になる可能性がある」という見解を提示した理由です。


私自身の経験からは、「持っている知識そのものが誤っている」ことや「必要な知識を全く持っていない」ということは、ほとんどありません。むしろ「知識が不十分」であったり「知識が部分的・断片的」であることによって、「知識の使い方を間違えている」ケースが多いように思われます。


「アインシュタインの相対性理論によれば『物体が光速に近い速度で運動していると、時間の進みが遅くなる』」というようなことを、どこかで聞いたことがあると思います。これは、「私たちが日常経験する範囲で有効な物理法則が、いかなる条件でも同等に適用できるわけではない」ということの代表的な例です。


重力加速度(物体を空中で離したときに、下向きに落ちていく加速度)は、「9.8m/s2 」と高校の物理の教科書に書いてありますが、いつでも、どこでも、絶対にそうであるという意味ではありません。同じ地球上であっても場所によって異なります。(非常に高い山の上では小さくなります)。また月や火星での重力加速度はまったく異なります。


「『知識が不十分』であったり『知識が部分的・断片的』であることによって、知識の使い方を間違えている」というのは、「重力加速度は、『9.8m/s2 』」という断片的な知識を頼りに、その知識や法則が有効な範囲を考慮せずに(例えば月や火星の上でも)同じ数値を使って物体が落ちる速度を計算してしまう、ようなことを指しています。


ここでは極端な例を引いて説明しましたので「そんな馬鹿な間違いはしない」と思われるかもしれませんが、私自身の経験では、現実のビジネスの世界は「知識や法則の有効な範囲を超えて使っている(間違った使い方をしている)」例であふれています。


「If all you have is a hammer, Everything looks like a nail. (もしあなたが使える道具としてハンマーしか持っていなかったら、全てが釘に見えるだろう)」という言葉があります。人間には、自分の持っている範囲の道具(ここでは知識)で、なんでも解決したいと考える性癖があるようです。私も例外ではありません。


一度なんらかの道具(知識、理論、手法)を使って成功した体験があると、またその道具を使いたくなるのです。そしてある道具を使って失敗すると、「道具が悪い」と道具のせいにしがちです。本当は道具が悪いのではなく、間違った道具を選んだ本人が悪いケースであるにもかかわらずです。


仕事を始める際に、あらかじめ「必要な全ての知識」を習得しておくことは現実的ではありません。おそらく知識の習得を完了する前に定年を迎えてしまいます。仕事を始める前に「どんな知識が必要か、あらかじめ全部わかっている」ことも、ほとんどありえないと思います。


しかしながら、今、使おうとしている知識(理論、手法、方法論、事例など)が、今まさに自分が取り組もうとしている仕事(環境や前提条件)に適しているか、有効か、を確認することは、有限の、それほど膨大ではない作業で可能なはずです。


「知識の誤った使い方」による影響を避けるためにも、知識(理論、手法)の活用をしようとする際には、一度立ち止まって、「今まさに自分が取り組もうとしている仕事(環境や前提条件)に適しているか」を検証することが大切だと、私は考えています。

マネージャーが、「この仕事には、この手法を使え」と部下に指示すると、部下は「この仕事には、この手法を使うのが適切であること」を全く疑わずに仕事を進めることになると思います。


仮にその手法が適切でなかったことに部下が気づいたとしても「マネージャー、この仕事には、この手法(知識)は向かないんじゃないんですか?」とは、なかなか言いにくいのではないかと思います。もし部下がそういう発言をできる環境だったとしたら、素晴らしいチームだと思います。


ですから、その知識(理論、手法、方法論、事例など)が「今まさに自分が取り組もうとしている仕事(環境や前提条件)に適しているか」を検証するのはマネージャーの責任だと思います。また、人材育成の視点から言えば、この検証をチームで議論しながら実行することが最も望ましいのではないかと思います。

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