誠実であるために、謙虚でいる(後編)〜山での学びがビジネスに生かされる〜


メタウォーター株式会社は、2008年に、日本ガイシの水環境子会社、NGK水環境システムズと富士電機システムズの水環境子会社、富士電機水環境システムズが合併する形で発足された水環境エンジニアリング会社です。

同社で人事総務企画室長を務める藤井さんのインタビュー後編は、ライフワークである登山についてお伺いしました。

「生と死の間で見えた大切なもの」「あえて頂上は目指さない」

山で学んだことがビジネスにどう活かされているのかをお聞きしました。


前編はこちらよりお読みください。


メタウォーター株式会社 / 人事総務企画室長 藤井泉智夫氏 白馬岳山頂にて

日本百名山制覇が目的ではない

J(ジョイワークス):藤井さんのご趣味である、山登りについて伺いたいと思います。

日本百名山制覇にあと30座を切ったということだったと思いますが、今後どのように攻めていくのでしょう?


F(藤井さん):実は日本百名山制覇という願望はまったく持っていないんです。

山を登り続けていたら、いつの間にか日本百名山を70座以上登っていただけで、それ以外の山もたくさん登っています。そもそも人の決めた「百名山」であって、自分のための名山ではないというのが私の考えです。

そして、日本百名山は基本的に標高1,500メートル以上のものという基準があるのが気に入りません(笑)。低山にもたくさん良い山はあるので。

山にはいろんな楽しみ方があります。


また、自分も年をとって山の楽しみ方が変わってきているんです。

登山をはじめて何十年かは自分ひとりの、秘密の趣味として楽しんできました。

ひとりで山に入り、自然に癒やされることが目的でした。

でもここ数年はパーティー(複数人数で登ること)で行くことも増えました。


つい先日も青森の八甲田山に10人ぐらいで登ってきました。

私がリーダーだったんですけど、あと50メートル登れば山頂というところまで行ったのですが、山頂付近では突風が吹いてて、私としては危険を感じ、結局は「帰ろう」という決断をしました。

みんなはもうちょっとなので、先に進みたいと思っていたと思います。しかし、パーティーを任されているリーダーとして下山を決断しました。


こういう「やめる」とか「これはだめだよね」という決断は仕事と一緒なんだと思います。

どんなに低い山でも「死と隣り合わせ」なんです。

きちんと事前に情報を収集して、危険のないルートを検証することが何よりも大切です。


死を感じた体験

J:いま、「死と隣り合わせ」とおっしゃっていましたが、今までで一番「死と隣り合わせを感じた」山での体験をお聞かせいただけますか。


F: 福島県の中部にある安達太良山(あだたらやま)という標高1,700メートルの山に3人で登った時の経験です。

時期は7月の終わり、コースは野地温泉から縦走して安達太良山を経由して山腹の「くろがね小屋」という山小屋に泊まる計画でした。


野地温泉を出発した時は無風温暖、快晴の青空という最高の天気、ところが中間点を越えたあたりで途端にモクモクモクと雲が出てきたんです。皆で歩みを早めたのですが、案の定、途中で雨が降ってきて、ひどい悪天候になってしまいました。

まだ雪渓が残る山の中で、ひとりがひどい寒さを訴えたので新聞などを体に巻いて、その上から雨合羽を着させ、前へ進みました。


そして、さらに困ったことに、予測ではもう少しで小屋への下山ルートというころに霞がかかってしまい、道がわからなくなってしまったんです。安達太良山は活火山なので、我々がたどっていたルートの右側に迷い込んでしまうと、有毒ガスが出ていて、死ぬんです。まずそれが怖かった。その恐怖心と戦いながらも、霧の中道を探していたんですが、なかなか見つからず、とうとう日が落ち、あたりは暗くなってしまいました。

雨は降り続いていて、体は冷え、どんどん心細くなっていきます。


そんな時、ひとりがくろがね小屋の明かりを見つけ、「こっちに行けば近いんじゃないか」と歩き出そうとしました。

でもそこは明らかに道ではありませんでしたので、そこへ引き寄せられようとするメンバーを引き止めました。

そのうち寒さを訴えていたひとりが低体温症一歩手前の状態になりました。

ビバークできるような場所もない。

自分も「これはもうダメかもしれない」と思い、死が頭をよぎりました。


そのときに道が見つかったんです。


下山道はぐるぐると探し回っていた場所のすぐ先のところにあったのですが、それが見つからず、ずいぶんと長い間彷徨っていたんです。本当に山は恐ろしい。

小屋にたどり着いたときには、小屋にいた人みんなが拍手喝采で迎えてくれました。


生き延びて今は無事ここにいますが、そのときは本当にいろんな事を考えました。


自分以外の命をどう救うか、これが山でリーダーをするときにいちばん大切なことです。これはまさに仕事と一緒ですね。もしくは会社経営と一緒なのかもしれない。


登山も会社経営も、多くの場合、はじめて通る道なので前に進みながらも「どこで退くのか」「ここは行っちゃいけないところなのか、どう迂回するか」など前例のない問題に直面した時に、迅速に進むべき道を決断していく必要があるんです。

だから山の経験は会社経営にとって結構勉強になりますね。


J:辞める決断って本当に勇気がいりますよね。


F:はい。

でも、逆に「思い切って行っちゃおう」ということもあります。

例で言えば、夏だと日没が遅くなるので判断基準を変えてちょっと無理をしてでも行動を起こす、ということなんだと思います。

「危ないのだったら引き返すし、行けるんだったら行っちゃおう」という、やはり大切なのは情報と柔軟性、そしてそれらを踏まえた状況判断能力だと思います。


高い山だけが名山ではない

J:深田久弥氏の「日本百名山」のあとがきに百名山を選んだ基準ということが書いてあり、「山の品格」「山の歴史」「山の個性」の3つだと言っていますが、これって人を見るときの要素に通じますよね。


F:同じですよね。

でも僕がそこをちょっと気に食わないのが、その3つで百の山を選んでしまったことなんです。なんで、低山はだめなの?なんで高い山が名山なの?と思います。

だから、自分としてはあえて無理をしてこれを制覇することはしません。「人が決めたことと同じことをやって喜ぶ」というのは僕はあまり好きじゃないですね。それだったら自分の百名山を決めたほうが楽しいです。


たとえば、伊豆ヶ岳。とても好きな山です。

これは800メーターくらいの低山です。飯能の先の奥武蔵にあります。

とても良い縦走路なんですよ。西武秩父線の正丸駅を起点として伊豆ヶ岳を超えて、子の権現天龍寺(ねのごんげんてんりゅうじ)というお寺を通るルートなんです。

子の権現は足を祀ったお寺なんですよ。境内に大きな草履があります。

だから我々登山者にとってもとても馴染みがあるお寺なんです。

そこはもう何十回も行っています。

シーズンが変われば美しさも変わる大好きな、良いルートです。


最高の贅沢を楽しむということ

J:藤井さんにとって山登りにゴールはありますか?


F:ないですね。それはたぶん人生にゴールがないのと一緒で。

山頂に立つのが山登りの目的ではないので、別に山頂にこだわることはないですね。

そして素晴らしい山は無限にあるので終わりはないですね。

最初に言ったように、自然の中で生きていくという実感を味わえることが私にとっての目的なので。

お酒を飲んでるときと、山に登っているときが一番幸せなときなので(笑)


J:最長の縦走はどれくらいの日程でしたか?


F:国内で一番長いのは北アルプスの5泊6日ですね。

でもこの5泊6日は、普通は3泊4日のコースなんですが、それをわざと一人でのんびりと行きました。


J:贅沢ですね。


F:ものすごく贅沢です。なかなかできない贅沢なんです。お金を出してもできない。


なぜかというと、時間と、そして天候。天候だけはお金を出しても買えないものですし。あと自分の体調ですよね。この三つが揃わない限り、できない贅沢なんです。


あえて頂上は目指さない

J:頂上を目指さないことについてもう少しお聞かせ下さい。


F:登山の楽しみ方はいろいろあるということだと思います。登山というと大半の方の目的が登頂となっていると思います。登頂すれば達成感はありますので否定はしません。

でも登山の本質的な目的は、素晴らしい景色や自然を楽しむのということではないでしょうか?

仕事もそうですが、答えありきで、本質的な視点が抜けてしまうと、目的と手段が逆になってしまったり、新しい視点や発想が出にくくなってしまいます。

山頂を目指すことだけが目的になると、山の中腹には美しいお花畑があるにもかかわらず、無理してでも霧の中の山頂を目指してしまうといったことになりかねません。

山の楽しみ方はそれだけじゃないはず。広くとらえてみる、そのほうが学びも楽しみもあるんです。


J:本日は長いお時間ありがとうございました。山に行きたくなっちゃいました。


F:こちらこそありがとうございました。

そういえば、ジョイワークスを一言で言うとに、もう一言。

「吉田さんは太陽。あの笑顔」(笑)


J:ありがとうございます、伝えておきます。(笑)


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